2024年、邦銀が揃って過去最高益を記録したというニュースが相次ぎました。メガバンク3行の連結純利益は揃って1兆円を超え、地銀でも2桁増益が目立ちました。一見すれば、経営の健全性が回復し、日本の金融業界にとって明るい話題のように映ります。
しかし、冷静に立ち止まって考えるべきです。その「利益」は、誰が支払った対価なのか? そして、それは本当に顧客にとっても“良いニュース”なのか。
コア業務純益の推移と収益の構造変化
「コア業務純益(Core Net Business Profit)」とは、銀行の“本業”から得られる収益、つまり利ざや、手数料、為替収益などの営業収益を示すものです。この数字が伸びていれば、金融機関として本業が好調であることを意味します。
実際、全国地方銀行協会の発表によると、地銀各行の2024年中間期コア業務純益は前年同期比で+17.8%。貸出金利の上昇や手数料ビジネスの拡大が寄与しています。
「過去最高益」の報道の陰には、特定の収益源に依存した成長があることが透けて見えるのです。
利ざやだけではない:手数料ビジネスの存在感
過去最高益の背景には、日米金利差の拡大による運用収益の向上や貸出利回りの改善があります。しかし、近年の銀行収益で無視できない存在となっているのが「手数料ビジネス」です。
主な手数料収益の内訳
- 投資信託や保険商品の販売手数料
└ 顧客が購入するたびに3~5%前後の手数料を銀行側が得る。 - 事業承継やM&Aに関するコンサルティングフィー
└ 成約1件あたり数百万円〜数千万円の報酬が発生する。 - 経営分析・改善に関するコンサルティング
└ 毎月数十~数百万円の手数料収入。
特に注目すべきは、投資信託の販売において、顧客の長期利益よりも、銀行側の販売ノルマやインセンティブが優先されるケースがあることです。利益率の高い商品が営業目標に組み込まれることで、結果的にパフォーマンスの低い商品が売られ、顧客利益との乖離が生じる構造が続いています。またコンサルティングサービスもフィーに見合った成果があるのか見定めていく必要があります。
銀行の利益は顧客の“コスト”であるという視点
金融機関の利益は、どこから生まれているかといえば──それは顧客の支払った利息や手数料です。つまり、銀行の利益が増えているということは、裏を返せば顧客側の“コスト負担”も増えているということ。
特に手数料ビジネスの拡大は、高齢者やリテラシーの低い顧客を中心に、知らない間に割高な金融商品を購入させられているという構図を温存しかねません。
利益の“質”が問われる時代へ
これまでの銀行業は「収益の絶対額」に注目されてきましたが、今後は「収益の構造的な質」が評価の軸になるべきです。
- 顧客との長期的な信頼関係の上に成り立っているのか
- 短期的な手数料稼ぎや、金融商品販売による押し売りに近い手法に依存していないか
- デジタル活用や非対面チャネルによって効率化され、顧客の利便性向上に資する形になっているか
といった視点からの評価が必要になります。
顧客にとっての“良い銀行”とは
今後、銀行にとって最も重要な資産は「顧客の信頼」になるでしょう。例えば、以下のような特徴を持つ銀行は、顧客にとっても安心して付き合える金融機関です。
- 販売手数料の低いインデックス型商品の提案がある
- 営業が成果報酬でなく、顧客利益に連動するKPIを重視している
- 事業者向けコンサルティングが本質的な経営改善に資するものとなっている
そういった構造改革に取り組んでいる銀行が、同時に過去最高益を出しているのであれば──それは顧客にとっても歓迎すべきニュースとなるでしょう。
結論:過去最高益は「構造の中身」で判断せよ
「銀行が過去最高益を更新」という言葉は、決して額面どおりに受け取るべきではありません。その利益がどのようにして得られたか──ここにこそ真の意味が隠されています。
顧客にとって重要なのは、銀行が儲けていることではなく、自社への金融サービスがより透明で、公正で、納得感のあるものになっているかどうかです。