借金は「効く」から意味がある。効かないなら、それはただの重りと言えそうだ。
企業経営における借入とは、本来「時間を買う」行為である。
未来に生まれる利益を先取りする形で資金を手当てし、設備投資・人材獲得・商品開発などの成長資源に変換していく。これは金融の基本形であり、適切な資金調達は、事業の飛躍に直結する可能性を持っている。
しかし、そこには条件がある。
「その事業がレバレッジに耐えられる構造であるかどうか」という視点だ。
レバレッジとは
財務的レバレッジとは、自己資本に対して他人資本(借入)を使うことで、自己資本利益率(ROE)を引き上げる構造といえる。
これが成立するためには、2つの前提条件が必要となる。
- 借入コスト(金利)以上の収益性が継続的に見込めること
- 規模の拡大によって限界利益率が上昇する構造(規模の経済)が内在していること
つまり、追加的な資本を投入すればするほど、固定費が分散され、利益率が向上していくようなビジネスでなければ、レバレッジは効かない。
レバレッジの効くビジネスと効きにくいビジネス
まず整理しておきたいのは、「レバレッジが効きやすいビジネス」と「効きにくいビジネス」の違いだ。
レバレッジが効きやすいビジネスの特徴
- 初期投資型:製造業・重工業・ITプロダクトなど、最初の投資が大きく、その後は限界費用が小さい
- スケールの経済が働く:顧客が増えるほど、単位あたりのコストが下がる構造
- 自動化・システム化が可能:人件費が固定費化しやすく、売上が伸びれば利益が一気に増える
- 再現性が高い:同じ仕組みを横展開することで、効率的な拡大が可能
こういった事業は、借入による成長戦略と相性が良い。資本を投じることで利益構造が改善され、ROE(自己資本利益率)も高まる。
レバレッジが効きにくいビジネスの特徴
- 労働集約的で、利益率が薄い
- 売上がキャパシティの制約を受けやすい(例:客数・席数・時間など)
- 属人的な価値創出が中心(スタッフの力量に依存)
- 拡大しても固定費が比例的に増える
こうした事業は、資本を投下しても飛躍的な利益増加にはつながりにくく、借入によるレバレッジ効果が働きづらい。
これを否定するのではない。
むしろ、それぞれに合った「成長の仕方」と「資金戦略」があるというだけだ。
「借入ありき」の成長戦略は幻想である
成長したいから借りる、という発想は危うい。
重要なのは「借りることで利益構造が改善するか」「資本コストに見合った収益が見込めるか」であり、それが明確でない限り、借入は単なる資金繰りの先延ばしにすぎない。
事業がそもそもレバレッジの効かない構造であるなら、自己資本で堅実に成長するしかない。それが苦しいからといって借入で拡大を試みれば、損益分岐点が上がり、事業体力が早く尽きるだけだ。
本来は「資本」で支えるべきビジネス
特に飲食やサービス業を志す起業家には、自己資本で運営するべき事業としての認識が必要である。成長に時間がかかり、確度も不透明な領域に、借入という“確実な返済義務”を乗せるのは、リスクとリターンのバランスが破綻している可能性がある。
それでも借入を行うなら、それは不確実性に対して過度な期待をかけた投機であると認識すべきだろう。
借入は「戦略」である
借入は戦略であり、誰にでも許される資金調達ではないという考え方を持っています。
- レバレッジのかかる事業なのか
- 借入金の投資対効果はどの程度か
- 金利コストを吸収できる利益構造か
こうした点を検証せずに借入を進めると、企業は早晩、返済不能な状況に陥り、再建の選択肢も限定されていきます。
だからこそ、事業戦略と資本戦略を一致させることが不可欠であり、我々の役割でもあります。