投資において損失が生じた際、冷静さを欠いた売却、いわゆる「感情的な損切り」は戦術的に最も非効率な選択である。なぜならば、それは損失という資産を一切活用することなく廃棄する行為であり、課税最適化という本来得られるメリットを放棄しているからである。
損失は、課税所得に対する「控除原資」である
日本の税制において、株式等の譲渡所得および配当所得は損益通算が可能である。加えて、通算しきれなかった損失は最長3年間の繰越控除も認められている。
従って、損失が発生した際の最適行動は以下の通り。
- 他銘柄で含み益を確定し、当該損失と相殺する(リアライズド・ゲインとのバランス調整)
- 通算可能な損益を全て税務上申告することで、課税所得を圧縮
- 翌年度以降の利益見通しがある場合、損失繰越控除の適用申請を行う
これらの行動を伴わない損失確定は、単なる資産毀損行為であり、経済合理性を欠く。
税制最適化は投資リターンの本質の一部である
投資の真のリターンは、税引後リターンで測定されるべきである。税引前でいかに優れたパフォーマンスを出しても、課税後に毀損されていれば意味がない。
したがって、損失はリターンを守る防波堤として活用しなければならない。含み損を適切にコントロールし、通算タイミングを設計できる者こそ、税制下での最適リターンを享受する。
非合理な損切りは、構造的に損を積み上げる
- A銘柄:+80万円の利益
- B銘柄:−50万円の損失
上記の損益通算を行えば、課税対象は +30万円。税額は約6.1万円。
対して、損失Bを通算せず損切りのみ実施した場合、課税対象は +80万円。税額は約16.2万円。
この差額10万円は、損切りによって追加で支払う必要のなかったコストである。
そして、これが毎年繰り返される場合、長期的には投資戦略全体の収益性を著しく損なう。
結論:損切りは「節税戦略」抜きでは行うべきではない
損切りとは、リスクヘッジではなく「税務上の戦略的手段」であるべきだ。
節税という対価を得ずして損失を確定するのは、リターン最大化の観点から完全なロスである。
損失は使い切って初めて価値がある。